『お前の言うことも分かる。だが、昔と今は違う。自分一人で何でも背負うな。後で悔やむくらいなら俺を頼れ』
(略)
『そうしたら、俺が一生一緒に背負ってやる』
Act.2の幕引きとなる、完結巻ですよ!!
最悪3巻まで出たところで終わる愉悦ルートすら示唆されていただけに、ここに来られただけでも感慨深い。
そして、今回は今まで以上に加筆されていて、WEB既読組でも楽しめる事請け負いです。書籍版初出のネタが登場するので、「加筆多いっていう6巻だけ読もうかな?」はあまりオススメしませんが。
初っ端から女王として君臨していた当時のティナーシャの様子が描かれていました。
なにこれ知らない……。王候補のラナクが乱心したこともあって、女王には支持者の他に反発する勢力も居て。それを、女王として切り捨てて。
ファルサス王家から遊学に来た王族と、ちょっとした交流をしていましたが。この当時は、建国当時の逸話が口伝で残っていたんですね……。ディアドラ……。
即位してから面倒事にばかり巻き込まれるために、在位期間を削ろうか、という提案がレジスから出て。
ティナーシャが伏せていた情報を告げて、オスカーが交渉した部分もあるみたいですが。
婚礼衣装が出来たら退位する、と言う話になりました。幸せそうなティナーシャが良いですよね。
その報告をしに行ったら、「聞いたら死ぬ歌」を聞きに娼館に行く計画をオスカーがたててるんだからもう……。
扉が一瞬で潰されたり窓にひびが入ったり。ラザル達が逃げ出したそうにしてるのも分かるわー。
この歌のエピソードが、Act.1とはまた違った方向に話が進んでいくのが楽しいんですよね。
噂を流した娼館の男、シモンの過去。呪歌によって故郷が滅ぼされた、と言う話から大陸規模でひっそりと進行していた事件が明らかになって。
犯人を捕まえた後、オスカーとレジスが酷薄な会話をしてる場面も好きです。敵には容赦しない王族の覚悟が見れる気がする。
加筆部分で、調査の過程で水の魔女が登場するのも嬉しい。
元々古宮先生が、設定上はいるけど本編に登場しない「全員揃わない」ネタが好みだったとかで、本編には関与しない筈だったんですよね、水の魔女。ただ、都度「本編に登場しませんよー」と言うのも何なので、加筆で登場する事になったとか。
実際、私も他の短編とかですれ違ったりするのも好みだったんですが。こうやって絡んできてもそれはそれで美味しい。精霊たちの中に、彼女を知っているって情報も知れてよかった。
鏡に関する騒動では、ティナーシャの女王としての顔がより鮮明に描かれて。
オスカーが珍しく足踏みしてる感じはありましたけど。動きだしたら止まりませんよね、彼。
暗黒時代を知るティナーシャの隣に立とうとする気概を感じるというか。
彼女に言わせれば「存るがままにしか言わな」くて、絶望を超えるために支えてくれるという理解が、とても尊い。
5章がまるまる書き下ろし章なんですが……ヴァルトが、オスカーに使えていた時代とか、最高ですよね……。
ヴァルトのオスカーへの態度と言うか、感情が明瞭になったのはいいですね。たった一度仕えただけだけど、他の人間の様に上手く操れない、と言う彼が好き。時読の一族であるが故、相容れない相手ではあったけれど、憎んでるわけではないこのさじ加減がもう最高ですね。
帯で明らかになっていますが、長月達平先生による「完結に寄せて」と言う寄稿文が収録されていて、愛を感じてよい。
そして、その後に章外としてのオマケがあって、先の話を垣間見れるのはとても楽しかったです。
(※以下に巻末で明かされた情報についての叫びを収録します。未読の片はご注意下さい)