「偶然で自分を責めるな。起こってしまったことは、全てなるようにしかならなかったことだ。たとえば俺とお前が出会ったことも偶然で……何一つお前のせいじゃない。気に病むことはないんだ」
「月蝕」という本編に繋がる、前日譚。
18年2月にこちらが刊行されて、「月蝕」はまだ出てないっぽい。
以前に出ていた「時の夢」に短編は乗っていましたが。
『Unnamed Memory』の系譜ではありますが、かなり暗めの話です。
逸脱者となって、かなりの時が経った二人。
街に買い出しに行った折に、何者かに追われている少年を保護して。
人さらいに会った彼の実家を訪ねてはみたものの……そこもまた惨憺たる有様で。
行先をなくした少年、セノーを保護し教育をしたりしていました。
それはとても穏やかな風景で、和みました。
釣りに行った先でオスカーが変な魔法生物釣り上げて、ティナーシャがセノーを連れて帰ろうとしたりとか、なんかいつも通りな二人が眩しかった。
あるいは、このままセノーが長じて、自分の道を定めるまで三人で暮らすという可能性もあったのでは、と夢見てしまうくらいには。
偶然によって出会い、別れることとなって。
片割れが居なくなった事で安定を欠いているティナーシャが、自ら眠りを選び……
そして目覚めて、しまった。
ささやかな祈りが果たされなかったこと、歯止めを失ってもティナーシャは呼び声に応えたこと。悲しいしやるせない。これで前日譚って、本編本当にドロドロの復讐譚になりそうですけど。
短編時点で既に不穏だからな……楽しみな様な怖いような。