「俺はお前を助けにいけばいいのか? それとも、殺しにいけばいいのか?」
アキラはシロウに借りがある。だからこそ、隠さずにそう告げた。
「どうなんだ? シロウ」
坂下重工という鳥籠を飛び出し、自分の目的を叶えるために行動しているシロウ。
それは謎の組織に所属する女性ハルカに協力するためで……坂下重工としては、シロウは有能だしそれまで注いだ資金とかもあるから、救出・捕獲が出来るのが最善。
しかしそれが叶わず、シロウが建国主義者に寝返った場合は殺害も辞さない。
そんな思惑を説明された上で、アキラは坂下重工のスガドメからの依頼を受けることに。
最前線向けの装備とか報酬前払いだったのもありますけど、「アキラは貸し借りを重視する」という事を知っているから先払いで多額の報酬を積んで見せるのお見事というか。
まぁ、「シロウに借りがあるから坂下重工への敵対も辞さない」という姿勢を見せた後だから、というのもあるでしょうけど。
アキラが実力を伸ばしてきたことで、いろんな思惑に巻き込まれることも増えて来たなぁ……って言おうと思ったんですけど、まぁそもそもがアルファとの出会いで、特大の爆弾を抱え込んでるから今更ではあるか。
スガドメの「契約とはそれを守るという認識を共有してると示す儀式であり、契約を守る理由は、契約をしたからでなくてはならない」という弁舌、「口約束であっても約束は守る」アキラにはそこまで刺さってませんでしたけど。
裏工作も出来る大企業重役ってこともあって、100本心でもないんじゃないかとは思いますが、それこそ「契約を守る思想・幻想を共有する」という言葉は結構好きですね。
高額な報酬が約束された、厄介な依頼。
それを受けることにしたアキラでしたが……彼には、レイナ達にリオンズテイル社の端末の場所を案内するという約束をしていたので、それを果たすことに。
リオンズテイル社の重役……どころか現代のリオンズテイル社の総帥であるローレンスが直々にやってきてたり、そのローレンスを狙って攻撃してくる関係者が居たり、坂下重工からの依頼を受けてる裏でリオンズテイルの問題も進行しているの、厄介なことになりそうな気配が凄い。
偽アキラを作った建国主義者側の人間であるハルカの傍にシロウがいて、騒動が落ち着いてからもシロウからの連絡はなかった。
それを受けて借りがあるとは言えアキラからシロウへの義理って言う部分は目減りしてるんですが。それでも、ユミナとの交流で自分の身を挺しても誰かを助けようとする相手への好意・敬意がアキラの中には芽生えていて……。
ハルカを助けたいシロウ。シロウに死んでほしくはないハルカ。そして、そんな2人を追うことになるアキラ。
お互い譲れないのでこのまま行けばアキラがシロウを殺して送る形になりそうでしたけど。
アキラがシロウへの敬意分譲歩して……その譲歩で出来た猶予を、より活用するための公証人として引っ張りだされたシジマの哀れさよ……。
賭けとは言え危ない橋を渡り切ったのはお見事でしたけど、まーた『アキラ相手に厳しい交渉をまとめた』実績が出来てしまったので、これが知られたら同じように狙われそうですね……合掌。
アキラと言う後ろ盾の元に勢力を伸ばしたシェリルの組織、急激に拡大したからどうにも足場が不安定なんですよねぇ……。アキラが坂下重工から懸賞金掛けられたこともあって、人員の流出が起きたりもしたみたいですし。
ただ今回受け入れられはしなかったけれど、アキラに自分の秘めた思いを打ち明けたことで、シェリル自身の軸はハッキリしたのは良かったですね。
ハルカの組織思ったよりヤバい事考えてそう、というか。いろいろと技術抱え込んでそうで、ここで叩けるんだったらラッキーって気配を感じてはいるんですけど。
他にもいくつもの思惑も入り乱れているので、下巻でどういう展開になっていくのか予想できませんね……。
シロウが作中で説明のためにした、旧世界の認証を騙すために必要な「本人の範囲」の思考実験、「医学的な問題は旧世界の技術で全て解決済みとする」とか言う暴論じみた前提があって笑っちゃった。
「アキラを真っ二つにして右半分と左半分で再生する」とか「別人を半々で混ぜたら? 割合が変わったら?」って仮定を進めてましたけど。シロウも言ってましたけど、実現不可能なら思考実験だけど、旧世界の技術はそれを可能にしてしまったから「本人の範囲」を定義する必要が出た、って話はなんか個人的にツボでした。