chibi
「ティナーシャ、人であることを忘れるな。一人で全てをやろうとするな。酷なことだろうが……お前は人をやめてしまうには力が大きすぎる」
書き下ろしエピソードである「円卓の魔女」とWEBで掲載していたエピソードに加筆した「鳥籠の女」の2編を収録したate第5巻。
水の魔女カサンドラに、屍人姫ヒルディア・ハーヴェにイラスト着いたのは個人的に凄い嬉しいポイントでしたね。
今回は表紙絵がティナーシャ1人で描かれている通り、逸脱者2人の協力はほとんど見られません。
「円卓の魔女」においてはオスカーまだ死んでるタイミングで、たまたまティナーシャがルクレツィアに会いに行ったときに、魔法大陸で起きている不穏な事件の話を聞いて解決しようとする話だったわけですし。
オスカーがエルテリアの繰り返し以外に、アカーシアを生んだ世界外の力を取り込んでいることで、呪具に対して特効を持っているのに対して、ティナーシャはその膨大な力でごり押ししている部分もあって。途中話題にあがってましたが、今回の呪具もオスカーが活動可能な状態だったら、もう少し楽だったんだとは思います。
ただ、呪具へのカウンターとして生み出された逸脱者2人は、呪具が減るにつれて生まれ変わりのサイクルに間があくようになっていて……だから、今回みたいな状況も珍しくなくなってしまうんですよね。悲しい。
事故で海中に沈み、近ごろ魔法大陸に運び込まれたことで、これまでティナーシャ達の探索から結果的に逃れていた、銀色の円卓。
13人の参加者を集め、そのメンバーに『ある都市の滅亡を回避する方法』を考えさせる呪具。ルール説明と、シミュレーションを走らせた後の結果を伝えるために、ゲームマスター的な人格が付与されていたのが、今まで例のない特殊な存在ではありましたね。
一般の参加者がどれだけ模索しても、シミュレーションの答えは「滅亡」から変化せず……。最後には呪具の意思によって排除されてしまう。
そしてティナーシャは一度介入した時に、呪具の意思が排除を成したときに笑うのを感じた。
彼女の片翼であるオスカーは「人の尊厳を傷つけられた」と感じたから、この長い呪具の戦いに臨んだのだ、と。だから、まさに尊厳を傷つけまくっている呪具を放置は出来ないと戦いを決めるの、良いですよねぇ。
……その解決方法が、自分の魔力に耐えられる12人を揃えて力技でごりおすだったのが実にティナーシャらしいですけど。
ルクレツィアは死ねないから助力できないといいつつ、ティナーシャが失敗した時に備えてオスカーに伝えるための情報を残していくように言ったり、彼女なりに動いて援軍に声をかけてくれていたのは良かった。
ファルサスに継承されたトゥルダールの精霊たちもそのほとんどが元の位階に戻っていて。さらには、その中の何人かは死んでいたというのがサラッと描かれていたりするの、無常だけど誠実だとも感じます。
12人の精霊のうち、1人はまだファルサスに残っている。3人は死んだ。そして残った8人を召喚して。逸脱の繰り返しの中で縁の出来た最上位魔族第二位ツィリーも招くことに。
ツィリー……元第2位がオスカーに執着したことでティナーシャに殺され、複数の位階が揺らいだことでバランスをとるために生まれた魔族なんですよね。
過去、同人誌『時の夢』収録の「猫の爪」や『時の夢2』の「寧日」なんかでその断片的なエピソードが描かれていて、その当時はオスカーに執着して殺された前後なので、まだまだワガママな子供って感じだったんですよね。
それが1人でも立てる立派な女王様みたいな風格を持って登場したので、驚きました。ティナーシャと相性悪いのは相変わらずみたいでしたけど、自分の助力について「見返りがあるからやったなんて恥ずかしいでしょ」と伝えないで良いと言った事とか、本当に成長していて……良かったですね。
精霊8人、ツィリーとティナーシャで10人。そしてティナーシャが出した求人になんかうっかり伝承で語られるような厄介ごとでもある「屍人姫ヒルディア」が応募してきて。彼女と彼女の従者を配置することで2枠を埋めて。
……そして、ルクレツィアが参加できない代わりってわけじゃないですけど、生き残ってる他の魔女2人が協力してくれることになったのは良かったですね。
ラヴィニアが参加者として。そして外れない占いをするカサンドラが盤外の応援として。
人外大決戦みたいになってて、凄いワクワクしました。
今回、呪具側に意思があることで、その悪意みたいなものもあからさまに受けることになったわけですが。
「ある都市の滅亡を回避したい」が思考会議のゴールなら「先んじて他の都市を滅ぼしてしまうのもアリでは?」とか、過激な提案してるのちょっと笑った。
イツとかに指摘されていましたが、状況を都度修正出来ないあたりが悪辣ですよね。
参加者が意見を出せるのは「こういう方針で進めよう」という最初の一手だけで、その後は呪具の演算まかせ。シミュレート結果は「複数パターン試しけど無理でした」ばかりで詳細は秘匿されている。
呪具は全てのパターンは網羅していると豪語しますが、性能限界で滅亡の50年前からしか演算が出来なかったり、「滅びる前に滅ぼせ」という過激なスタート地点には驚いていたりするので、全然完全じゃないんですよね。……完全だったらそもそも彼らの故郷滅んじゃないでしょうけども。
核に迫ってもなお足掻く呪具に、ヒルディアが提案をすることで「破壊への抵抗」ではなく「呪具本来の機能」で動こうとして隙を作るの、凄い好みの解決方法でしたね……。
強力な参加者をあつめてなお呪具は厄介で……ラヴィニアの命が代償になってしまったのは、惜しい。
死に瀕した中でも、ティナーシャに「お前は人だ」と祈りを託すように、母が子を教え諭すように言葉を紡いでくれたの、良かったですね……。別れは寂しいですけど。
魔法大陸の暦で考えた時に「円卓の魔女」は3005年と、UMが1654~55年だったことを想うと、とても長い旅を続けて来たなぁ……という思いになります。
「鳥籠の女」なんて一気に時間が飛んで4690年代ですからね……。逸脱した2人は、元々最強の魔女とそれに対抗しうる魔女殺しの剣の遣い手であったわけですが。これまでの繰り返しから示すように、無敵じゃないし普通に死ぬんですよね。
永遠なんてない。全ての物には必ず終わりがある。……それは、彼らの旅の始まりであったファルサスが滅亡してることからも、伺える話です。WEB既読民として知ってましたけど、年表に明示されるときまで追いついてしまったか……と感慨深くなった。
さて、後半「鳥籠の女」。魔法大陸、戦乱大陸(東の大陸)、虚無大陸、埋没の大陸……とこれまで4つの大陸を渡り歩いてきたわけですが。
最後となる、埋没の大陸と同じく水の檻で閉ざされた閉鎖大陸が舞台となるエピソードです。
大陸内には毒が満ち、鍵という装置がないと死んでしまうとされる世界で、帝国の軍人として勤めるアルファスと、皇帝の前に現れて鳥籠と呼ばれる檻に敢えて滞在しているティナーシャの話。
ティナーシャと接触しまくってて、オスカーの肉体年齢も全盛期に近そうなのに、いつまで経っても記憶を取り戻す素振りがなく。
そんな中で、ティナーシャは別の人物と組んでクーデターに寄与したりと好き勝手やっている、なんか変わった味わいのあるエピソードなんですが。
この大陸の楔に迫る戦いにティナーシャが与していたのは、結局のところ彼女の連れ合いの為だった、と。
1600年近くたっているとはいえ、この前のエピソードの「円卓の魔女」で「一人でやるな」とラヴィニアに言われていたのに、一人でやろうとしまくってるティナーシャは本当にさぁ……。
「章外:青の部屋」が、好きなんですよね。オスカーが記憶を取り戻し、勝手をしていたティナーシャに、「2度とするな」と釘をさす話ではありますけど。彼が語る「一番うれしかった時」が、公人としての割合が強すぎるオスカーが我欲を珍しく示すシーンで、かなり好きだったので、しっかり収録されてて嬉しかったです。
まぁティナーシャもラヴィニアの指摘をスルーして一人でやったわけですが。オスカーはオスカーで、ate2の頃、ティナーシャを失った後にミラに言われた「ティナーシャ様がいないと何もなくなっちゃうところ、もっとあの方に見せた方が良いよ」ってのを明示してこなかったわけですから、似た者同士でもあるんですが……。
Ate6で、のこった2つの呪具にまつわるエピソードが描かれることで、物語に一つの決着がつこうとしているの、なんというかひどく感慨深いですね……。
楽しみです。Ate6の後に、『End of Memory』も描かれてくれると凄い嬉しいですけど、どうなりますかねぇ。
「なるほど、国王を上回るのは道化師だけですね!」
まさかの紋つきの魔人と遭遇し、封印するなんてトラブルに遭遇しましたが無事に帰還したフィーア。
そこで国王が第一騎士団の新人を一人ずつ呼び出して行う面談に参加することになって。
面談の時期にいつも王都を離れる仕事を思いついている総長、賢明だな……って内容知ってからだと正直思いましたけど。
フィーアのことを良く知るシリルが巻き込もうとしたのも……まぁ分かる。
実際、秘匿されている情報の核心にフィーアは迫ることになったわけですしね。
フィーア、本当にここぞという時の頭の働きはいいのに、なんで普段あんな抜けているんだ。彼女の様子を見ていた公爵からは「理論ではなく、常人には分からない情報を積み上げていく天才型」とか称されていましたし。本気になった時の洞察力が凄いからこそ、その気力を10分維持するために1か月だらりと過ごす必要があるのかも、なんて分析もされてましたが。
視野が独特ですかね、フィア。でも本当に大事なところは外さないから、彼女を信奉する人も増えていくというわけで。
あと大聖女だってこと隠したいとは言っているけど、国王に駆けられた呪いを「こんな強力な呪いは見たことがない」とかも口走るので、本当にもう……。
フィーアのトンデモ具合が国王とその側近にも伝わった中で、「フィーアが国王様の秘密に気付いたよ」や「フィーアの従魔真実」などなど胃に悪い議題複数をぶつけられた騎士団長のお歴々は本当お疲れ様です。
……フィーアの信者もいるから、温度差が激しいのも疲れを増す要素にはなってるでしょうが、傍から見てる分には振り回されまくってて楽しい。

「あんたが選んだのは俺だ。俺の名だけを、あんたはあの本に書いたんだ」
この作品の感想を書く前に、ちょっと語りたい前提情報が多いんですよね……。
まずレーベル的には電撃の新文芸なんですが、こちら『電子限定』の刊行となっております。また、chibi先生のイラストは表紙イラストの扉のみです。
古宮九時先生が、以前同人誌で刊行された『Fal-reisia』1~3巻と、短編集『Fal-reisia Unnamed Stories』に掲載された一部エピソードを加筆修正のうえでまとめ上げた1冊ですね。なので、めちゃめちゃ厚いです。BOOK☆WALKERのストア上だと、547ページとかになってます。
『Unnamed
Memory-after the end- Extra』と頭についている通り、『Unnamed Memory』の後日譚である『Unnamed Memory-after the end-』シリーズの第4巻に登場した「扉」を巡るエピソードが紡がれるシリーズです。
今月発売予定のあるate5巻は、このエピソードを超えた未来の話が描かれていくことになります。『Unnamed
Memory-after the end-』というシリーズが、呪具について深掘りしていく(と思われている)シリーズだということもあって、その本筋(呪具)に関わらないエピソードは割愛されていくって話をどこかで聞いた気が。
そんな中で、電子限定とはいえシリーズ纏めてくれたのは嬉しいですね。短編集の方は持ってなかったので、一部とはいえ再録されたのはありがたい。
一応、逸脱者たちも登場しますがメインではなく、キーファという普通の少年がメインで進んで行くので、ateを抑えてなくても読めるとは思いますが。謎が残るでしょうから、時系列順にate4とate5巻の間に読むのをオススメします。
「俺は、ずっとお前の傍にいるからな」
(略)
「知ってますよ。信じてます」
完全書下ろしで贈られる、アンメモアフター第4巻。
魔法大陸と東の大陸の呪具の捜索は進めていたが、近ごろでは成果がなく。
大陸分割神話によって、この世界は1つの大陸が5つに分かたれたことが分かっていたため、残り5つの呪具を求めてオスカー達は別大陸を求めて海路を旅することに。
海は危険なので、ティナーシャが船を浮かべて空路を行ってる時間も多かったようですし、それだけの事をしてもなお半年かかったそうですから、一般的なアイティリス大陸の住人がこの新天地を目にすることってほぼないんじゃないでしょうかね……。
魔法士を狙った襲撃が隣の大陸から起きて、その侵攻による忌避感から外部への進出が止まったという流れもあるみたいですし。
章扉で虚無大陸と題されていましたが、オスカー達が到達した場所は現地住人が誰一人として存在せず、滅びた街しかなかった。
調べても調べても滅びた村と街しかなく……最終的にオスカー達は、野営では休まりきらないからと、拠点を創り出していたのは笑っちゃった。
もとからあるもので使える物を使ったりしてましたけど、オスカーもティナーシャも長く生きてきた経験で色んな技術身に着けているし、ティナーシャは精霊術士でもあるので開拓めっちゃ楽しんでて良かったですね。ほのぼのした。
そんな人が生きていない場所で、オスカー達がただ一人出会えたのがナフェアという少女であった。
呪具によって統一された言語を経験していないナフェアとオスカーが、最初は言葉が通じなかったけれど……Babel時代に雫が遺して今も伝わっている言語学習用のアイテムが活用されていたのは、このシリーズならではの繋がりを感じて味わい深かった。
WEB既読の民として、五大陸の一つが「楔しかない」って言う情報は知っていたんですよね。その真相がアレかぁ……と思うと、無常を感じたと言いますか。
長く続いていた停滞に決着を齎すのが、逸脱者たちであるというのは良かったですね……。未来への希望ではなく、過去の思い出に準じたのそれだけの想いを感じて痛かった。
ナフェアと交流できたことで情報が得られて。ティナーシャが派遣していた海への探査。ナフェアの居た大陸しか見つけられなかったのは、残り2大陸は神の遺した力によって封じられていたから。「水の檻」で覆われているため、そのまま「檻中大陸/埋没の大陸」と呼ばれていましたが。
後半はその埋没大陸についてのエピソードでした。魔力がエギューラという呼称で認識されていたり、魔法として出力する文化がなく……むしろ病気とみなされていたり。
雫の故郷である現代地球に比べると未成熟な部分はあれど、車や銃と言った科学技術が発展している、これまでの大陸とはまた違った毛色の大陸でありましたが。
7章「新天地」の冒頭が、外部者たちの世界の描写で送り込む呪具についての会話が一部
収録されていたのは、嬉しかったというか。世界観の解像度上がっていくのは良いですよね。……それはそれとして、「影響が出るとしても良い影響のはずだ」とかいう楽観が含まれてるのは「この……」って気持ちになったし。
送り込む呪具が壊れた時にも作用するような補完性を持たせようとしていたりするのは、もうちょっとお手柔らかにって思う気持ちも沸いたりしましたが。
でもエイリアドの「挑み続けるという意思が大事だ」という願いに似た祝福が、嫌いじゃないんだよなぁ……。エルテリア製作者……。
埋没大陸は人が生きている場所だったので、序盤は大陸に馴染むためのエピソード。そして後半が本命である呪具にまつわるエピソードとなっていましたが。
なんというか、ままならないなぁと思ったと言いますか。「良い影響のはずだ」とか言ってた外部者を見てからだと無駄にダメージがありましたが。
この大陸の楔が秘匿し続けた神代の遺物に触れてなお生還できたのは何よりでした。……毒を貰ったような状態で、緩やかに死に向かっている状況にはなってしまってましたが。
それでも。幾度繰り返しても別れが痛むとしても。ただ静かに見送れる時間が与えられたのが、良かったなと少しだけ思いました。失われない方が、なお良いに決まってますけどね。
「だからこそ俺が手を伸ばす
俺が立ち止まっていては永遠にあいつに届かない」
内部に入り込んでいたミラリス。
その目的は宝物庫に収められた宝玉であったわけですが。
ティナーシャに捕捉された状況でそんな強奪劇が成功するはずもなく。それでも魂すら魔力に変換して抗おうとしたわけですが……失敗。
ただ、ミラリスが最後にティナーシャへ「女王候補者さま」だったり、「妄執との再会」だったりと彼女が引っ掛かりを覚える発言を残していったわけです。
その宝玉はオスカーの亡き母が持ち込んできたものだそうですが、オスカーの父である国王の口は重く。
ティナーシャは気になるから心当たりにあたることも考慮してましたが……ルクレツィア以上に厄介だと称する相手なために、即行動というわけにもいかず。
色々と刺激されて迷いが生じているようなティナーシャ相手に「好かれている自覚を持て」と宣言して、アピールしていくんだからオスカーが強いなぁ。
31話のティナーシャファッションショー、実に良いですよね!
ティナーシャ自身が頼んでいたものは彼女らしいシンプルさで動きやすさも考慮してそうなのが性格でますよね。
そのあとのシルヴィア、三パターンも選んでるの本気すぎて笑う。ティナーシャの目が泳いでるのも笑えますけど。シルヴィアセレクションだと見開き左のページに載っている奴が特に好きです。
オスカーが選ぶのは式典用なのもあって豪奢でティナーシャに似合ってるのが好き。
その次の話で、解呪シーンが見られたのも嬉しいポイント。初出の詠唱では……?
強力な祝福を掛けられていたオスカーに対し、同じ個所に呪いをぶつけることで相殺するという解決方法を見出してるのは凄い。
実際、それを聞いてから詠唱を聞くと呪ってそうだもんな……。
順調に解呪が出来たかと思ったタイミングで、ティナーシャが探し求めていた過去が追い付いてくるんだから悪魔的というか。
オスカーもこれまでの経験でより逞しくなっていて、必要な仕事を片付けた後ルクレツィアに会いに行こうとしているあたり、行動力あって良いですよね。
『――リゼット。あなたは、誰かの為ならどんなリスクにも飛び込んでいくのですね。実に好ましいです』
(略)
『わたしが言いたいのは、あたなはとても強い人。失ってはならない人。その自覚を持ってほしいということです。自分を大切にしてください』
自由を手に入れた令嬢リゼットは、ダンジョンで出会った仲間レオンハルトやディーと共に新たなダンジョンを目指して旅を初めて。
その道中、ゴブリンによって被害を受けている村を発見。よくよく調べてみたところ、未発見のダンジョンを見つけて、そこに突入することを決めたわけですが。
入ることはできても、出ることに制限がかかっている特殊なダンジョンになっており、困惑することになって。
さらにダンジョン内部で、不審な二人組ケヴィンとユドミラに遭遇したり。
特にユドミラの方に難癖をつけられたりと、面倒事が立て続けにやって来る状況になってしまったわけですが。
リゼットは相変わらずダンジョン内でのモンスターご飯を堪能しているのが、面白くて良かった。
彼女の求める自由を堪能しつつ、不審な動きをしているときには対策を取っていたりするので完全に無防備という訳でもないのは良かったですね。
まぁ祖母の教えがあって一つダンジョンを踏破したとはいえ、新人冒険者であることに変わりはなく、時折危うく見えるシーンもありましたけども。
新たな聖遺物の発見と女神との交流があったりして、リゼットの素質が光る回でもありましたねぇ。
ケヴィン達の所属、ろくなことしないなぁ……というか。黒魔術を察知して動き出したように思える速度があるわりに、現場での情報を信じずに暴走していたりするのが、統率取れてない感がひしひしと伝わってきて面倒くさいって感想になりましたが。
前回と今回の一件でリゼットの味方も増えているだろう、という希望があるのだけが救いか。
(――私は、前に進む!)
もう失うものは何もない。この魂は誰よりも自由だ。
逃げずに戦う。リゼットは心を決めた。
クラウディウス侯爵家の長女として生きてきたリゼット。
なんでも姉のものを欲しがる義妹と、その義妹ばかりをかわいがる父とに挟まれた彼女はある日、聖女の力に目覚めたが……。
その力すら義妹は欲しがり、父は禁じられた黒魔術を扱う者を招き、聖痕を義妹へと移しリゼットを罪人としてダンジョンに送る刑罰に処されることになってしまった。
ダンジョン内部でお金を稼げば解放されるとされるが、過去に成し遂げたものはいない実質的な死刑。
けれどリゼットは、全てを奪われた状況でも決して絶望はしていなかった。
それどころか、かつて冒険者だったという祖母に教えられた知識を活用したい、とワクワクダンジョンに乗り込んでいくことに。
一応そこには元家族の干渉などがあるかもしれないから、それを振り切って自活するため、という理由もありましたけど。
ダンジョンに挑むのは罪人だけはない、というか罪人の方が珍しい存在で。教会側の人員とかも派遣されていたりもしましたが……。教会も聖女と思われている義妹側の存在ですからねぇ。
実際、速攻でダンジョンに潜ったリゼットが、その後に冒険者ギルドに入ったところ、彼女が借金を背負った罪人であるっていう噂が広まっていたので、彼女の懸念は正しかったんですよね。
義妹視点もたびたび挟まるんですが、ダンジョンに挑ませて殺したわけではないから、冒険者相手に春を売ってればよいと思っているあたり、より悪辣だと震えましたね。一般的な貴族令嬢にはそっちの方が心を折るでしょう、と。幸いリゼットは普通じゃなかっただけで……。
トラブルを回避するために、彼女は極力地上に戻らずダンジョン内部で活動できるように装備を整えてダンジョンへ突入。
そしてダンジョン内部で倒した魔物を美味しく味わいながら、ソロ冒険者ライフを満喫していくことになります。いやはや、本当に自由で良いですね! 強くて笑っちゃった。
その過程で、様々な事情で仲間に裏切られたりした人物と出会ったり、魔物料理を振舞ったりして、奇妙な交流をしていくことになるわけですが。
出逢いこそ変わった形でしたけど、そこからパーティーメンバーとして進んで行く中で良い関係を築いていけていたのは良かったですねぇ。
横暴を働いた義妹たちへ報いが与えられる展開ですとか、作中におけるダンジョンの設定の開示とかも含めて1巻でまとまっていたので読みやすくて良かったですね。
「俺に…お前を殺させるな」
「あれは私じゃありません」
「それでもだ」
「森の見る夢1~4」と「形に命を吹き込む1~3」を収録。
ティナーシャが魔女と周知されてからも、彼女はなんだかんだ変わらず城での日常を送っていたようです。
1P目の講義受けてる時の目が小さく描かれてるティナーシャ好き。布の展示会も1コマだけですけど大き目に取ってくれてたので良かった。ティナーシャが困惑してる傍らシルヴィアが生き生きしてて良い。奥にしっかりオスカー居るし。
そんなある日、塔の魔法具を点検するため数日ティナーシャが留守にすることになって。
その隙を縫って危ない地域に踏み込んでいくんだから、オスカーはちょっと反省してもらって……。
「なるべく守る キリッ」ってやってるシーンはおふざけ交じりですけど、その後陳情書をみて「なるべくな」って言うシーンでは目が真剣になってる切り替えをコミカライズの絵付きで見れたのは良かったですけど。
確かに調査は必要だったでしょうけど、王太子自ら危険地域に踏み込むんじゃないよ……。
ティナーシャにバレないように試みてた主に、「いっそばれちゃえ」と言えるラザルが面白い。
調査に行った先でヤバいものみつけてたし、派遣する人員は選ばないといけなかったでしょうけど。
問題を解決したと思ったら新たな魔女ルクレツィアと遭遇するんだから、もう……呪いをかけてきた魔女を含めれば、これで5人いる魔女のうち3人と出会ってるんですから引きが強い。
ティナーシャが子守歌を歌ってるところや、幻影の彼女が満面の笑みを浮かべるシーンとかは好きです。
ここでルクレツィアと縁が出来て、彼女がティナーシャを気にかけているから、呪いの解析のヒントが得られたりもするので、割と得はしてるんですけどティナーシャが頭を抱えるのも分からないではない。
その後にクスクルの使者が来て彼女の傷えぐってくるんだもんなぁ……必要なエピソードだけど辛い。だからってわけでもないでしょうが使者カガルが、登場した巻で速攻退場したのはちょっと胸がスッとしました。
「私は妹にそんな騎士道を教えた覚えはない…」
「私も教わった記憶がないわ 兄さんはずっと私を無視していたもの」
騎士の家系に生まれたが、剣術の才能がなかったフィーア。
それでもなお騎士になりたいという彼女は、魔石を取ってくるという成人の儀をさせてもらえることになったわけですが。
姉はフィーアの実力と彼女のことを思って止めに来るけど、父と兄は興味なさそうなんだよなぁ……家庭環境が伺われる。
まぁ実際、黒竜なんて伝説級の魔物に遭遇してしまったからとはいえ死に瀕したわけですし、心配も正しくはあったんですが。
怪我した竜を心配して回復薬を与えたが、現代の回復薬無理やり回復力を高めるもので激痛が走るため暴れた竜に噛まれた、っていうのは避けようがないか……。
でもそれで死にかけたことで、前世で大聖女として活動していた記憶を取り戻し、回復魔法その他を扱えるようになったことで、彼女の世界は開かれるわけです。
……とはいえ前世でもその能力を駆使して、魔王封印に貢献したのに同行した王子たちに裏切られ、魔王の側近によって責め苦を味あわされたという辛い経験をしていたわけで。
だからこそ今世では聖女にならないように、魔王の側近に存在がばれないようにしようと考えるわけですけど。
根が明るく軽いというか。自身の持つ魔力が現代では桁違いだと指摘を受けながら、それを用いた強化魔法とか普通に使って注目集めてるし、大丈夫だろうかと心配になる。
でも、今に至るまでの間のどこかで歪んでしまった聖女の姿を見て涙を流したり、聖女として真剣であった彼女だからこそ、その在り方を正してほしいという気持ちも若干あるのですが。
……前世の最期が最期だから無理強いもできないんだよなぁ。でも、今世の聖女の腑抜けっぷりを見ると、もどかしさが募る。
ちゃか
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