「ねぇ、じいちゃん。暗いのがこわくて、こわくて……。どうしたらいい?」
「何を言っとる。儂だって暗いのは怖い。何が潜んでおるかわからぬからな。じゃが、そこから目を瞑って怯えているだけでは生きてゆくことはできぬ。だから頑張るしかない。儂のいう事はわかるか?」
ゴブリンやオークなどの蛮族、通常の獣よりも強い魔獣が存在する世界。
人々が団結し国を作り開拓を進めているようですが、未だ開拓できてない未開地域や完全に蛮族を排除できてない辺境地域なんかはどうしても存在するみたいです。
主人公のアルは、そんなレイン辺境伯の領内にあるチャニング村を治める騎士家に生まれた三男。双子の妹イングリッドと仲良く過ごしていたようですが……。
ある日侍女を伴って野イチゴ採取に出かけた時、ゴブリンに襲われてしまって。アルは運よく生還できたものの、イングリッドは発見できずに死亡と判断されることに。
そんな経験から暗いのを恐れたアルに、過去冒険者として活動していたこともある祖父が光呪文を見せてくれて。
祖父のように魔法を使いたい、思ったアルはそれから祖父から教えを受けることに。騎士家の三男ということもあって、家を出ることも決定していたというのもあるでしょうけど。
そして十五になった時、彼は貴族の三男アルフレッド・チャニングではなく冒険者アルとして新しい一歩を踏み出すことになるわけです。
彼は幼少期から祖父の使う光呪文が、他の人の使うものよりも温かい気がすると感じていて。そこから、魔法を習得の際のイメージが影響しているのだと考え、実際自分で光呪文を使う時に明るさの調整が出来るようになっているあたり多芸ですね。
熟練すると多くの本数を放てる「魔法の矢」呪文も、アルにかかれば複数の矢を一本にまとめることで、威力か飛距離を伸ばす方向に調整することも可能だそうで。
アルはそういった魔法に存在するアレンジできる部分を「オプション」と名付け、活用しまくっています。それがタイトルにもある「あいつの魔法はおかしい」と言われるゆえんなわけですね。
十五で旅立つ前に学校に通っていた時とか。冒険者として活動を始めた作中においても、アルは聞かれれば割とさっくりこの情報を開示しているみたいですが。
今のところアル以外に再現できた人が居ないのが、惜しいところではありますね。再現性があって汎用的に使える技術としてまとめることが出来れば、アルの名前は魔法史に残ることになりそうなものですが。
……冒険者として古代遺跡探索とかしてみたい、と思っているアルの望む方向の栄達ではない気もする。
祖父からいろいろ教わってるとは言え、まだ若いし未熟な部分もありますが。その力を駆使して、出来る範囲で人を助けようとする概ね善性の人ですし。彼に助けられた人達も、その恩に報いようとしてくれるので、安心して読めるという印象でした。
……まぁアル、犯罪に使われる可能性が高いから禁術指定されている隠蔽呪文を習得できる書が見つかった時、こっそり習得したりしちゃう一面もあるんですが。
犯罪利用考えているわけではなくて、遺跡探索をしたいアルにとって有用だったり、魔法バカでもあるから習得できると楽しいから習得しちゃった、みたいな緩さも同時に持ってるから、そこまでは気にならなかったですかね。
禁呪のなかでもかけられた鍵を開錠できる呪文とかは、遺跡探索に有用なので黙認されているケースもあるみたいですし。
彼の使うオプション機能に興味を持った人が居たり、学校で知り合った貴族の友人との交流なんかもあったり、ちょっと予想外の出会いをしたりアルの道行は一筋縄ではいかなそうですけど、応援したいですねぇ。